MoonLENS応用編(1)対物レンズを「レデューサー・コマコレクター」として使用

MoonLENSの対物レンズは、視野の拡大や明るさの向上などの効果がある「レデューサー」、コマ収差を抑える「コマコレクター」として使用可能です。

【ユーザー報告】
「PalPANDA対物レンズ流用レデューサー・コマコレクターについて(関 正徳 氏)」

《アンドロメダ座大銀河》
PalPANDAの対物レンズを「レデューサー・コマコレクター」として使用した作例(1)

コマコレクターとレデューサーの役割

ニュートン式反射望遠鏡を覗くと、視野の周辺部の星が尾を引いてにじんでいる彗星(コマ)のように見えることがあります。これをコマ収差と呼びます。
コマコレクターはコマ収差を取り除くために設計されたレンズで、取り付けることで視野周辺部の星像もシャープな点像として見えます。
レデューサーは焦点距離を短くしたりF値(レンズの明るさを示す指標:F値が小さいほど明るい)を小さくするために用いるレンズ構成です。

MoonLENS対物レンズの検証

PalPANDA対物レンズ流用レデューサー・コマコレクターについて(関 正徳 氏)

→ 検証報告書のPDFのダウンロードはこちら

天体望遠鏡に一眼のカメラを繋ぐ際には、各種カメラマウントとTマウントと呼ばれるM42P0.75のネジ込み式マウントのアダプターがよく使われています。
このTマウントの中にアクロマートレンズを入れると、特に反射式望遠鏡ではレデューサー兼コマコレクターになる事が知られています。
しかしながら、そのためにはマウント内径のφ41以下のレンズである必要があり、また写真撮影時のゴーストを抑えるためにはマルチコートも必要となります。
今回、PalPANDAの対物レンズがレデューサー・コマコレクターとして使用可能かを検証する実験を行いました。

< 結論 >

● Tリングの対物側ギリギリにPalPANDAの対物レンズを挿入することで、0.864倍のレデューサーとなる。
● 周辺部の星像は、コマ収差により「v」字となっていた星像が「○(丸)」に近くなるが「・(点)」にはならない。(コマ収差は補正されるが、像面湾曲は残ると推測)

< 使用方法 >
通常、カメラ → Tマウントアダプタ → 天体望遠鏡と繋ぎますが、このTマウントアダプタの中の天体望遠鏡側(対物側)ギリギリにPalPANDAの対物レンズを、凸面(※レンズ側面から見て薄い側)を対物側に挿入しました。
また、Tマウントアダプタの内径がΦ41であり、PalPANDA対物レンズの外形がΦ40と1ミリほど差異があるため、1ミリ厚のモルトプレーンを巻いて、ゆっくりと手で押し込めました。(直接触らないようメガネ拭きを介して押し込みました。)

< テスト機材 >
● 天体望遠鏡:ビクセンR130Sf(※)
● ケンコー製Xマウント-Tマウントアダプター
● カメラ:FUJIFILM X-E1
● 赤道儀~天体望遠鏡:スカイメモS用微動雲台
(通常、三脚~赤道儀間で使用すべきものを赤道儀~天体望遠鏡で使用)
● 赤道儀:SB工房 JILVA-170+付属微動雲台+ナンチャッテ極軸望遠鏡(試作品)
● 三脚:SB工房 BT三脚
 ※接眼部まわりを細々と改造。
 ・ドローチューブの鏡筒内への突き出し分を切断。
 ・接眼側の内径が部分的に狭くなっていたため、ドローチューブ内径と同径のΦ36に拡張。
 ・ドローチューブのグラつきを抑えるべくホルダー側の内径を調整。
 ・つや消し塗装。

テストではアルタイルを視野中心に入れ、テスト撮影しました。ピント合わせは手製バーティノフマスクを使用しています。

上記撮影結果から判明したことを以下にまとめます(一部、結論と重複)。

● Tリングの対物側ギリギリにPalPANDA対物レンズを挿入することで、0.864倍のレデューサーとなる。
● 周辺部のコマ収差は、コマの長さが60%に短縮される。結果、涙型もしくは「v」字となっていた星像が「○(丸)」に近くなる。ただし「・(点)」にはならない。(コマ収差は補正されるが、像面湾曲は残ると推測。)
● ゴーストの発生は見られず。
● 中心部の星像の劣化は見られず。むしろ短焦点化のためか鋭くなっているように見える。特に、中心部の星像の鋭さは予想外であり、PalPANDA対物レンズが高精度で磨かれている証かと思われます。

< 所感 >
自作レデューサーをWEBで調べると、EOSマウント-Tマウントアダプターの独特の形状を利用したクローズアップレンズを使用する自作レデューサーが見つかりますが、EOSマウント以外では一切情報がありませんでした。PalPANDA対物レンズをレデューサーとして使用する場合、Tマウントの内径に挿入するためカメラ側はどのマウントでも良くなります。
レンズ自体もマルチコーティングが効いているためか恐ろしく透明で、ゴーストも見られませんでした。(TマウントにPalPANDA対物レンズを挿入した写真を撮るとき、あまりにも反射しないのでレンズを写すのに苦労しました。)
また、中心部の星像は劣化するどころか鋭くなるため、迷うことなく常用できます。結果として、ニュートン鏡+APS - Cカメラを使用している方であればどなたにでも勧められる自作レデューサーとなりました。

《干潟星雲》
PalPANDAの対物レンズを「レデューサー・コマコレクター」として使用した作例(2)